大野景範・原進著 「海軍水雷戦隊」(サンケイ出版) より 駆逐艦春雨

被雷前の艦首と異なり、舷窓がなくなり換気パイプが上甲板に煙管の先のような形で出ていた。 「うーむ、こりゃあ実戦的でいいが、南方へ行ったら、缶詰の中にいるようなもんだから、そうとう暑いだろうな・・・・・・」

 ・・・ 「海軍水雷戦隊」 115頁




「平和を欲するなら戦争を理解せよ!!」ってな強烈なコピーを掲げおよそ100冊もの壮大なラインナップを誇っていたサンケイ出版の「第二次世界大戦ブックス」の中で、駆逐艦をメインに取り上げたシリーズ唯一の本である「海軍水雷戦隊 太平洋を走破する駆逐艦の航跡」をご紹介します。

この本、タイトルこそ「海軍水雷戦隊」となっていて帝国海軍の駆逐艦全般を描いた本なのかと思わせてくれますが、実は白露型駆逐艦「春雨」を主人公とした本であり、春雨の工作科の兵曹であった著者の原進氏が昭和54年に発表された「駆逐艦『春雨』赤道の海に果てるとも 米潜の痛撃にはじまった第二十七駆逐隊南太平洋戦記」(光人社 リバイバル戦記コレクション6に収録)に日本駆逐艦の歴史を70ページ程加筆し、さらに一人称の形式を三人称に改めるなどしたものです。





本書の読みどころは何といっても、他書ではなかなか読むことの出来ない、工作科員ならではの記述にあります。
ウエワクで春雨が被雷したときに著者が直ちに行った隔壁補強工作(イラスト付)、あ号作戦前に作った内火艇爆雷投下装置と筏の件、さらに木栓を1200個も用意したことなどは、工作科の奮闘ぶりがうかがえて大変興味深いところです。

また、大方の駆逐艦戦記物では「潜没地点に爆雷を投下した、反転して再度投下した、油が浮いてきたので撃沈確実」程度にしか書かれてなくて今いちピンとこない日本駆逐艦の対潜攻撃要領に関しても、本書92ページの「『春雨』の対潜戦闘」なるイラストで実に明快に教えてくれており、私なんかこれだけでこの本に星3つをあげたい気分です。

また模型製作のヒントとして、昭和17年暮れの入渠で、誘爆による被害の戦訓にもとづき前部予備魚雷次発装填装置を取り外したとの一文にも注目したいところです。
誘爆対策なら予備魚雷の陸揚げだけでいいような気もしますが、あるいは予備魚雷による第2次攻撃という戦術そのものが諦められてしまったのかも知れません。 1ヶ月前のルンガ沖では予備魚雷の陸揚げを残念がっていたのに・・・。
いずれにせよ、昭和18年以降の白露型を製作するときには該当する部分を切除した方がよさそうです。





線の細そうな名前に反し弾火薬庫付近への被雷という痛撃にも耐えた駆逐艦春雨を作ってみました。
キットは勿論タミヤから発売されている「春雨」です。
多くの模型誌・ネットで以前から飽きるほど指摘されていることなので改めてクドクド申しませんが、このタミヤの「春雨」、素組みでは「春雨」にはなりません(^^)

しかし皆さん、小松崎画伯筆の「春雨」ボックスアートを見て下さい!

艦首を持ち上げ、ウネリを突っ切り、前方を睨む主砲の仰角は凛々しく高く、信号旗と戦闘旗をはち切れんばかりにはためかせながら最大戦速で突撃する、まさに駆逐艦の何たるかを描ききった、WLボックスアートの最高傑作であるこの勇姿を素組みで再現できるのがこのタミヤの「春雨」なのです!
タミヤのキットは艦橋の形が違うだって? 艦首が短いだって? リノリウム押さえが再現されていないだって? これじゃ後部発射管に再装填できないだって? 黙らっしゃい!!

正確な考証なんて野暮なことは気にせず、丸スペだの艦艇写真集などは書棚にしまい、ただただボックスアートに受けた興奮の赴くままに作ればいいのです! タミヤの「春雨」はそういうキットなのです!
そして私はこのキットをストレートに作りました。
最終時の「春雨」でもなければ竣工時の「春雨」でもない、まさに「駆逐艦春雨 Ver箱絵」な訳ですが、これでいいんです。

・・・と言いつつ、実はピットロードのパーツも使っているんで「ストレートに作った素組み」なんて大嘘なんですけどね、ごめんなさい。





組み立てですが、艦橋がヤケに前のめりになって格好悪かったので甲板との接合面や艦橋前面をタイラーで削って真っ直ぐシャキッと立つように調整しました。

おぞましい形状の射撃指揮所(パーツNo5)はゴミ箱へ直行となり、替わりにピットの陽炎型のものを取り付けました。
直に艦橋天蓋に付けると高さが不足するのでプラ板の台座をかましてあります。

前マストの後脚部分はキットのままですが、前脚部分は射撃指揮所同様ピットのパーツを適当な長さにカットして付けています。

魚雷発射管はキットのもの、主砲塔はアオシマの陽炎型の流用です(なんせジャンクパーツにはこと欠かないもので・・・)
これらはピットのパーツでもいいのですが、モールドのあっさりしたこのキットにコテコテのピット発射管や砲塔を付けると全体のバランスや調和が損なわれてしまうように感じられます。

船体の寸法が正確でないため、図面を写し取って舷窓を開けることが出来ないので適当にそれらしい位置に開けてみました。
本当はだいぶ閉塞されているわけですが、そこは「Ver箱絵」ということでフルに開けています。

ボックスアートでは艦橋前の25mm機銃が3連装になっていますが、どうしても3連装にする気になれなかったので2連装機銃にしました。
カッターのダビットも絵と違いますね。
舷側に「ルハツハ」と書いて上から塗りつぶしているところなんかはさすがに再現することは出来ませんでした(笑)

とまあ、偉そうに「Ver箱絵」だなんて言っておきながら、結局ボックスアートとも実艦とも違うものを作ってしまった訳でして、ここらへんの中途半端さに私の人格が現れているような気がしてしょうがない訳でして・・・己の生き様を1/700で具現化したのが今回の完成品ということなのでございます・・・。

最後に、今回初めて船体の塗装にクレオスの「ニュートラルグレー」を使ってみました(筆塗りです)。
「軍艦色2」ほど暗過ぎず、「舞鶴色」ほど明る過ぎずで結構いい感じだと思います。



                                                    平成20年1月21日 掲載

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