重本俊一著 「回天発進 わが出発は遂に訪れず」(光人社) より 駆逐艦親潮

大戦中、駆逐艦は、このソロモン作戦において最も活躍することができた。 私は、駆逐艦はこの作戦のため に建造されたのだとさえ思うことがあった。

 ・・・ 「回天発進 わが出発は遂に訪れず」 54頁




今回ご紹介する「回天発進 わが出発は遂に訪れず」は、3年9ヶ月に亘る戦いの末3人に2人が散ったという海軍兵学校70期生の1人として、過酷なソロモン戦や悲壮な回天戦に参加しつつも、遂に「出発」せず生き残ることとなった著者の慰霊の書とも言えるでしょう。

早く己の良き死に場を得なければならないと焦り、望んで潜水艦勤務に就いたにもかかわらず、4人の若人を彼らの死地へと運ぶ任務を与えられ苦しむ著者の目に映った人間魚雷回天搭乗員の姿が本書の主題ですが、全8章中最初の5章に著者が航海士として乗艦した駆逐艦「親潮」の奮戦と最期が克明に描かれています。

相手が機雷だったせいなのか、同じ3艦同時遭難でもキスカの第18駆逐隊に比べて駆逐艦戦記物における扱いが些か弱いように思われる第15駆逐隊「親潮」「陽炎」「黒潮」の遭難でありますが、本書を読むとこの3隻触雷こそ対潜戦闘を完全に甘くみて全く真剣に研究しようとしなかった帝国海軍の大欠陥を象徴する重大事件であったと私には感ぜられるのです。

「親潮」が遭難したとき、敵潜の攻撃とみて「陽炎」と「黒潮」とが爆雷の威嚇投射を行ない、駆けまわっているうちに触雷沈没の憂き目にあったが(中略)潜水艦の戦法を充分に研究しておれば、「親潮」の遭難は敷設機雷によるものだと判断ができ、二艦はその付近から遠ざかるという戦法に出られたはずである。

 ・・・ 回天発進 わが出発は遂に訪れず 158頁


NHKは「ドキュメント太平洋戦争」において、ガダルカナルで同じ失敗を何度も繰り返す"学ばざる軍隊"帝国陸軍を「敵を知らず己を知らず」としていますが、弱敵と見ていた潜水艦相手に目を覆いたくなるような惨敗を喫した海軍もそれは同じことだったのでしょう。




閑話休題、思わぬ伏兵により致命傷を負いながらも続く対空戦闘に全力で応えた、まさに「斃れて後止む」の駆逐艦「親潮」をピットロード製1/700駆逐艦「磯風」を使って作ってみました。
「親潮」最終時の姿として艦橋前の機銃台パーツが必要なだけですので、「磯風」じゃなく「雪風」でも「浜風」でも結構です。
ただ、2番砲塔は撤去されていないので忘れずに取り付けて下さい。

基本的に素組みですが、浅くて大き過ぎる舷窓の掘り直しと舷外電路の追加は実施しています。

ただし、今や当たり前とも言える工作となってきている窓枠のエッチング化はパスしています。
私は細かい工作が苦手、高価な精密パーツを汚く取り付けて作品全体を台無しにしてしまうんじゃ馬鹿らしいと、過ぎたるはなんとやらを 肝に銘じて製作に臨んだという訳なのです(笑)

その一方で、艦橋に取り付けられた防弾版の再現、この追加工作は窓枠なんかと違って今回の工作のキモとなっております。
短冊状にカットしたプラ板やエッチング製のパーツを取り付けるのが一般的な方法ですが、私は極細の伸ばしランナーを「防弾板押さえ」 のような感じで貼り付けることによって、防弾板の存在を表現してみました。
「壮烈!水雷戦隊」の表紙絵のような感じになってくれることを期待しての作業だったのですが、いかがでしょう?
あまりゴテゴテせずに無骨さを加えることができ、それらしい感じになってくれたので、これは成功と言えるんじゃないでしょうか・・・まあ「今回のキモ」と大見得を切ったわりには何ともショボい工作のような気もしますが・・・。

機銃はファインモールド製の25mm機銃を使用しました。
全てのエッチング製機銃を一夜にして過去の物としてしまった、この「ドレッドノート」な機銃はまったく言うことなしですね。 艦橋前の機銃台に装備され、「親潮」最後の戦いで万丈の気焔を吐きその活躍で乗員を瞠目させた13mm連装機銃にもこのファインモールド製 25mm連装機銃を取り付けました。
1/700ですから、25mm機銃と13mm機銃の違いは特に気にする必要もないでしょう。




塗装はいつも通り、烏口で赤のラインを入れた以外は全て筆塗りですが、今回はモデルアート誌やモデルグラフィクス誌等で紹介されてい る「黒で下塗りする」という方法を試してみました。
まず最初にMrカラー137番タイヤブラックを塗布、その上から13番ニュートラルグレーやピットロードシップスカラーのリノリウム色 を薄く塗り重ねていきます。
所々下地のタイヤブラックを透けさせたり、わざと塗り残したりすることで趣のある仕上がりになります。
さらに、塗り重ねの色を一色だけに止めず様々な色を大胆な筆遣いで巧みに塗り重ねれば、エアブラシでは生み出せない味わい深く個性 的な作品が出来上がるでしょう。
残念ながら私にはそのような自由闊達で思い切りのいい塗りが出来ず、ご覧の通りの凡庸な仕上がりになってしまいましたがね・・・。

煙突には第2水雷戦隊の隊番号1を示す「前1・後1」の白線を入れました。
昭和18年5月8日の親潮は2水戦の1番隊である第15駆逐隊の司令駆逐艦だったのでこのように塗ってみたのですが、「丸スペ」掲載の「戦艦 長門より望んだ親潮 − 昭和18年春頃の撮影」なる写真ではとてもそんな風には見えず、一抹の不安を残す作業となっております。




人間が、人生の終焉にあたって縁者に謝辞を述べることができる精神状態は、美の極地であり、自分の人生もかくありたいものだと私は念願した。

 ・・・ 回天発進 わが出発は遂に訪れず 237頁



私も著者重本氏と全く同じ想いです。
死を目前にしてなお落ち着きを失わない隊員の方々の姿には心を打たれます。

私はどうでしょう?
仕事のことや人付き合い等、隊員の方々が直面された極限状態にはほど遠い場面でも心や態度の平静を保てない事が多いのではないだろうか?

頭に血が上ったり、気が滅入ってやる気をなくしたり、慌ててしまって凡ミスしたり ・・・ 感情を制御しきれていない自分に、顔から火が出そうな思いです。

まったく、自分もかくあらねばならないと痛感し、私は本書を閉じました。




トップにもどる
inserted by FC2 system